世界遺産熊野古道の自然保護と観光との共存に向けた取組について

(1) 熊野古道世界遺産地域(熊野古道調査)

訪問日時 平成26年5月15日 8:00〜11:00
訪問場所 熊野古道世界遺産地域(和歌山県東東牟婁郡那智勝浦町)
説 明 者 熊野・那智ガイドの会 山東氏

熊野古道では、ガイドの山東氏から、熊野古道の歴史、自然、文化等について話を聞いた。

・世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」の中心となる紀伊山地は、神話の時代から神々が鎮まる特別な地域と考えられていた。また、仏教も深い森林に覆われたこれらの山々を弥勒や阿弥陀、観音の「浄土」に見立てるとともに、仏が持つような能力を習得するための修行の場とした。

その結果、紀伊山地には、起源や内容を異にする「熊野三山」、「高野山」、「吉野・大峯」の三つの霊場とそこに至る「参詣道」が形成され、都をはじめ各地から多くの人々が訪れるところとなり、日本の宗教・文化の発展と交流に大きな影響を及ぼした。

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・「熊野三山」、「高野山」、「吉野・大峯」は、古来、自然崇拝に根ざした神道、中国から伝来しわが国で独自の展開を見せた仏教、その両者が結びついた修験道など、多様な信仰の形態を育んだ神仏の霊場であり、熊野参詣道、高野山町石道、大峯奥駈道などの参詣道とともに、広範囲にわたって極めて良好に遺存している比類のない事例であり、それが今も連綿と民衆の中に息づいている点においても極めて貴重な資産である。

・登録資産の総面積が、約500haと広範囲にわたり、特に参詣道の総延長は300㎞超に及ぶ。また、道の大部分は幅1m前後と狭く、石畳や階段となっている部分もあるが、多くは、山中の地道である。こうした条件の中で登録資産を大切に保全し、次世代に引き継いでいくためには、多くの人々の理解と協力により、継続性のある保全活動を展開していくことが必要となる。

・かけがえのない資産がもたらす恵みを、世界の人々がいつまでも分かち合えるよう、参詣道を歩くにあたって、次のことをお願いしている。

「紀伊山地の参詣道ルール」

1.「人類の遺産」をみんなで守ります

2.いにしえからの祈りの心をたどります

3.笑顔であいさつ、心のふれあいをふかめます

4.動植物をとらず、持ち込まず、大切にします

5.計画と装備を万全に、ゆとりを持って歩きます

6.道からはずれないようにします

7.火の用心をこころがけます

8.ゴミを持ち帰り、きれいな道にします

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私たち一行は、ガイドに案内され、早朝より実際に熊野古道を歩いて調査した。日本で唯一、神社と寺院が隣合せに存在している熊野那智大社と那智山青岸渡寺。修験道の行場になっている那智大滝。そして、千年以上も前の面影をとどめる参詣道。どれも古の人々の思いを感じさせるものであった。

(2)和歌山県世界遺産センター

訪問日時 平成26年5月15日 12:45〜13:20
訪問場所 和歌山県世界遺産センター
所 在 地 和歌山県田辺市本宮町本宮100-1
説 明 者 和歌山県世界遺産センター 辻林 センター長、奥 事務局長

和歌山県世界遺産センターでは、辻林センター長から自然保護と観光の両立の取り組みについて話を聞いた。

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・世界遺産登録後、遺産に訪れる観光客の総数は、ほぼ横ばいで推移しているが、その内容は大きく変わった。

以前は、大型バスで訪れる団体が多く、熊野那智大社や、那智大滝など、いわゆる観光地を目的に来ている人が大半であったが、登録後は、古道を実際に歩く方々が増え、バスで訪れる人は減少した。また、外国人が以前の約10倍に増加した。

・多くの観光客が来れば、ごみが問題となる。世界遺産として保全していく上での自然保護上の問題としては、1つに観光客が廃棄するゴミ対策であった。ゴミ箱が満杯になる等の景観上の問題に対し、対策としてゴミ箱を撤去するとともに、ガイドによる啓発活動が実を結び、結果として、来訪者のゴミの持ち帰りによりゴミの減少となった。ごみ問題は3年で解決することができた。

また、遺産を守るため、禁煙としている。

・観光客を速やかに遺産に誘導するため、これまで行政毎に表記しデザインしていた案内標識を統一化し、観光振興を後押しする取り組みを行っている。

・古より「蟻の熊野詣」と形容されるほど多くの人々を受け入れてきた熊野三山への道「熊野古道」、高野山への主要な参詣道として利用された「荒野山町石道」は、地域住民など多くの人々によって今日まで受け継がれてきた。これらを人類共通の財産として保全し、次世代に引き継ぐことが求められている。

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・観光客の増加に伴い古道そのものが傷む保全上の課題に対し、和歌山県では参詣道の維持・修復活動として、企業や団体に維持・修復活動にボランティアとして携わっていただく活動「道普請」を実施している。

その内容は、参詣道への土の補充や横断溝・側溝の清掃活動を行いながらのウォークである。作業用資材等にかかる費用は、実施者の負担としている。活動を通じて自然保護への意識づくりの効果が期待される。和歌山県では、熊野古道の観光振興を図るとともにその自然保護にも積極的に取り組み、自然と観光の共存を目指して活動している。

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・「道普請」では、管理団体である市町村の文化担当者や世界遺産センター職員による事前レクチャーなどを行ったうえで、世界遺産の維持修復活動に携わっていただいている。修学旅行、企業・団体のCSR活動や研修の一環として楽しみながら世界遺産の保全に取り組んでもらえる事業である。

・この事業は、リピーターが多く、何年も続けているボランティアもいる。

土は、文化財と同じものを使わず、一目で修復した個所が解るようにしている。

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・そのほかには、高齢化、過疎化が進んでいる地域にあるため、景観や自然を守るために休耕田を企業に面倒を見てもらっている。同時に景観上、空き家対策も行っている。また、現在、山を守るため、山仕事の手伝い体験事業を検討している。

・世界遺産を守るためには、継続的な地道な取り組みが必要である。自然保護と観光の両立は、どの地域でも抱える問題であり、問題の一つ一つに対して、知恵をだし、多くの方々の協力を得る努力をしていかなければ、遺産は、次の世代に引き継いでいくことは不可能である。

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青森県の世界遺産白神山地も、まずは、自然を守る知恵をだし、県民の協力のもとともに育み、世界の人々に知ってもらい、体験してもらい、愛してもらう取り組みが必要である。

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